美の壺「小泉八雲 怪談」




左目を失明、右目の視力も悪かった小泉八雲が「耳なし芳一」に込めた思いとは?

「雪女」で描かれたのは、母が子に捧げる“無私の愛”。

4歳で母と生き別れた八雲の、母への思いを、残された記録から探る!

「ムジナ」で登場する“のっぺらぼう”(ムジナが化けた妖怪)は、“自分とは誰か”という八雲自信の問いに重なるという。

なぜ八雲は、お化けたちにメッセージを託したのか?

「怪談」執筆の背景に迫る!<File 418>

【出演】草刈正雄,早稲田大学 名誉教授…池田雅之,絵本作家…いせひでこ,琵琶奏者…関川鶴祐,島根県立大学短期大部 教授…小泉凡,文芸評論家…東雅夫,【語り】木村多江

美の壺「小泉八雲 怪談」

放送:2019年8月18日

1904年。一冊の本がアメリカで出版されました。古来日本に伝わる怪しく恐ろしい物語17編がまとめられた怪談です。目の見えない法師が毎夜平家の亡霊の前で琵琶を弾く耳なし芳一。人間に裏切られながらも愛する我が子のために許しを与えた雪女。怪談に登場するオバケたちは皆人間くさく情念溢れる存在ばかりです。作者はラフカディオ・ハーン。ジャーナリストとして40歳でアメリカから来日。のちに帰化小泉八雲と名乗りました。八雲が生前肌身離さず持ち歩いた品が残されていました。「アメリカから持ってきたもので作品を全部このペンで書きましたので、魂のような気がして、これだけはここに置いてございます」これは八雲がスケッチしたオバケたちです。なぜ八雲は日本のお化けたちに心惹かれたのでしょうか。今日は怪談に隠された八雲のメッセージを紐解いていきましょう。

芳一は目の見えない貧しい琵琶法師でした。耳なし芳一の舞台壇ノ浦です。芳一が琵琶を聞かせた相手。それはこの海で滅んだ平家一門の亡霊でした。平安時代末期。平家は幼い安徳天皇を盾に源氏と死闘を繰り広げます。そして海の藻屑と消えたのです。今でも壇ノ浦一帯の海岸では不思議な出来事があるといいます。「船の上で寝ちょるところでチリリン。チリリンという音を聞いたように感じる。平家さんのこともあろうからそうかもしれんと思うたりする」かつて歴史の壮大な悲劇を語るのは芳一のような琵琶法師でした。八雲はその世界に読者を巧みにいざないました。「耳なし芳一という作品は一番八雲の文学の特徴が出てて、やっぱり僕らは耳の文学と言ったりしてるんですけれど、作品から聞こえてくるのはやっぱり音なんですよね。耳から響いてくるそういうものを大事にした文学だなって思いますね」音が物語を豊かに紡いでいるのです。今日一つ目のツボは魂の声を聞く。

八雲の写真です。左を向いて映っているのには理由があります。16歳の時に事故で左目を失明していたのです。聴覚が鋭敏だったと言われる八雲にとって、音の描写を託すには芳一の物語は格好の題材でした。耳なし芳一の元は、臥遊奇談という江戸時代の書物にある短編でした。にもかかわらず、今も語り継がれ色あせないのはなぜでしょうか。八雲ならではの方法がありました。妻、セツの口から昔話を何度も語ってもらうのです。「私が本を見ながら話しますと、本を見るいけません。ただあなたの話。あなたの言葉。あなたの考えでなければいけません。と申しますゆえ、夢にまで見るようになってまいりました」セツの言霊を受け止めながら八雲は物語の本質を見出していきました。そして芳一が引く琵琶の音の表現に魂を注ぎました「荒れ狂う海での戦のくだりを語り始めました。櫓をこぐ音、舟が突き進む音。矢が空を切って飛ぶひびき。雄叫びの声。兵たちの踏み鳴らす足音。兜を打つ太刀の音。切られた者が海に落ちている音。それらの音を芳一は琵琶で巧みに引き分けました」音にはその時その瞬間を鮮やかに蘇らせる力があることを八雲は知っていたのす。




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