「ホーホケキョ」の鳴き声は、個体によって音の高さが違ったり、「ホーホケキョキョ」などと鳴き方が異なっていたり…バリエーションの秘密とは!?▽喜多川歌麿や歌川広重など、そうそうたる絵師が描いてきた「梅の木とうぐいす」の絵。そのモチーフに、現代の日本画家が新たな発想で挑む!▽春の定番「うぐいす色」。着物や帯、和菓子などを紹介!▽江戸家小猫さんの名人芸も必聴!<File475>
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美の壺「 うぐいす 」
春になると<、どこからともなくあの鳴き声が聞こえてきます。
そうウグイス。
その美しいさえずりからオオルリ、コマドリと並んで日本三鳴鳥の一つに数えられています。
ウグイスは全長十五センチほどの雀科の鳥で、春先に鳴き始めることから、ついた呼び名は春告鳥。
「ウグイスの声を聞くと、これから春が始まって、鳥たちの活動が活発な季節になるから、これから忙しくなるなと。今年はどこへ行こうかっていうようなことを考えるきっかけになること
ウグイスは日本人の暮らしに深く根付いています。
例えばこちらは、昭和初期に誕生したうぐいすパン。
その名の由来は青エンドウ豆を煮てつぶした緑のあんこ。
ウグイスの色に似ていることからうぐいすあんと呼ばれています。
東京鶯谷。
この地名もウグイスからという説が。
元禄年間、江戸のウグイスはなまっていると嘆く京都の貴族の求めに応じ当時の文化人・緒方乾山が京都からウグイスを持ってきたというのです。
今日は日本人にとって身近な野鳥、ウグイスの魅力を紹介します。
横浜の演芸場。
動物の鳴き真似でおなじみの江戸家小猫さんです。
続いてお付き合いいただきますのが動物の物まね下ま
何が一番宿屋の中で伝統的かと言いますと、
これは春にホーホケキョと鳴くうぐいすの声がございます。
ウグイスのさえずりは初代江戸屋猫八さんから五代続く江戸家のお家芸です。
「基本的にはこの小指をですね、ちょっとこうこの字型に曲げてで親指を上に向けて加えるで後は息をこの隙間から抜くんだよって、ここまでだけです。あとはもう全部自分の歯並び手の形がありますから、もう一生懸命いろんな角度とか、口のあて方っていうのを自分なりに工夫して自分で音を探していくっていうことですね」
そんな小猫さんのウグイスの鳴きまねには、あるこだわりが。
「舞台映えするウグイスって考えると多少そのホーホケキョのところ抑揚をデフォルメするんですね。ウグイスホーホケキョっていう言葉として記憶されている中で本物そっくりに鳴くよりも多少デフォルメをかけた方が反応が良いことがあるんですよ。例えば舞台上で鳴くときはこう非常にわかりやすくホーホケキョで、これが本物に近づけますとホーホケキョのところの感じがもうちょっとこうホーホケキョっていう」
今日最初のツボは。
心には躍る春のさえずる。
日本各地を巡りウグイスのさえずりを研究している人がいます。
国立科学博物館の濱尾章二さんです。
「基本的にはあの高いところで鳴いてますけれどもウグイスはああ言う高いところにはなかなか上がらないですね。春から夏の繁殖日にオスが縄張りを張るために縄張り宣言でホーホケキョってのはですね。オスの声なんですけど、谷渡りって言いましてね、人を見つけたり高が飛んだりしたときに泣くことがあるので軽快な意味があるのかとも言われてるんですけどルイスのメスを見つけた時に谷渡り鳴きをすることもあるので謎の声ですね」
ウグイスは警戒心が強く一日のほとんど藪の中で暮らすため人前に姿を見せることはほとんどありません。
そんな用心深いウグイスを見つけるチャンスが今の季節。
オスが行動を行うため外に出てさえずるからです。
出てきましたね。
実はウグイスのさえずりには大きく分けて二つの意味があります。
こちらはおなじみの鳴き方。
縄張りを主張しメスを獲得するためのさえずりです。
そして。
先ほどとはちょっと違いますね。
これは侵入者に対して警戒をしているんです。
さらに縄張り主張と求愛にもよく聞くと様々な鳴き方があります。
こちらのウグイスは二種類のさえずりを使い分けています。
音の高さがわずかに違いますね
このように鳴き方のバリエーションが多ければ多いほど健康で丈夫な雄であることの証しだと言います。
「二つから五つぐらいのレパートリーを使って個性あるさえずりをしています。ですから周囲のライバルにとっては
そういう複雑な鳴き方をしているオスはライバルとして手強いことになりますし、メスにとっては非常に魅力的なパートナー
ということになります」
こうして結ばれたウグイスたち。
どんな暮らしをしているかご存知ですか。
藪の中の巣をちょっと拝見。
ウグイスは一度に四個から六個の卵を産み、およそ二週間でふ化します。
こちらは子育てを捉えた貴重な写真です。
虫を捕り与えるのはメスの仕事。
雛たちはおよそ二週間で育っていくそうです。
春の訪れを告げるとともに新しい命が生まれる喜びを運んでくれるウグイスのさえずりです。
とりあわせ
こちらは江戸時代中期に活躍した浮世絵師・喜多川歌麿が描いたウグイスです。
この時代、ウグイスを飼うことが大流行。
人々は家で美しいさえずりを楽しんだといいます。
ウグイスはここにも。
やはり江戸時代に流行った花札です。
全部で四十八枚。
四季折々の花鳥風月が描かれていますが、そのうちの一枚には必ず梅の木にとまるウグイスが描かれています。
一般的に梅にウグイスと呼ばれるこのモチーフ。
なぜか多くの絵師を虜にしていきます。
江戸時代末期の絵師・歌川広重も梅にウグイスを描いています。
長さ三十センチほどの短冊状の紙に梅の木でさえずるウグイスの姿。
しかもこの一枚だけではありません。
広重は構図を変えて何枚も描いていました。
なぜこんなにも多くの人々が梅にウグイスのモチーフに惹かれたのでしょうか。
日本野鳥の会理事で江戸時代の鳥の柄にも詳しい松田道生さんです。
「江戸時代の人たちは結構取り合わせ。鳥を合わせるっていう取り合わせが好きで、
松に鶴ですとか竹に雀とか、その中に梅にウグイスっていうのがありまして
春を思わせる二つのものを合わせて梅にウグイスっていうのが流行ったんですよね」
そう春に咲く梅。
そしてウグイス。
確かにこれ以上ないほどの春の組み合わせですね。
でも驚きの事実が。
この景色。
現実には滅多に見られないんだそうです。
「今まで五十年近く鳥を見てるんですけども、梅に鶯が止まったのは見たことないです
そもそもウグイスは地面に近い場所で虫を食べて暮らすため梅の木の枝にとまる必要はないのだそうです。
ではこの取り合わせはなぜ生まれたのでしょうか。
その起源は万葉集にあるという説があります。
梅の花散らまく惜しみ
我園の竹の林にウグイス鳴くも
この句には確かに梅とウグイスが登場します。
千四百年の時間をかけて、日本人の心の中で少しずつイメージが出来上がっていったのかもしれませんね。
今日二つ目のツボは、万葉の時代から受け継がれる春の息吹。
連綿と受け継がれてきた梅にウグイスの絵。
今新たな視点で描こうとしている人がいます。
花鳥画の第一人者、上村淳之さんです。
自然の一部を切り取ったかのような生き生きとした作品が特徴です。
例えばこの二羽のオナガ。
何かに気づきそわそわしているように見えませんか。
こちらはツツジに留まるシジュウカラ。
どこかに遊びに行こうよなんて言いながら今にも飛び立ちそうな表情をしています。
上村さんがなぜリアルな鳥の絵を描けるのか。
それには訳がありました。
アトリエの中を見渡すと巨大な鳥小屋が。
「こちらジョウビタキ。これはシジュウカラ。もう大好きな鳥なんで」
上村さんは学生の頃から鳥が大好きで、特別に県の許可をもらって鳥を飼育しています。
間近で観察した様々な鳥の生態を自らの作品に生かして描いているのです。
そんな鳥好きの上村さんでもあまり描いてこなかったのが梅にウグイス。
一体なぜなんでしょうか。
「主役にするんだったらね難しいです。主役を務めるにはね非常に地味な色ですからね難しいですよ」
これまで上村さんが描いてきたのは色鮮やかな鳥。
鳥が自ずと主役になり、自らも晴れやかな気持ちになるからだと言います。
しかし年を重ねるとともにウグイスの落ち着いた色合いに惹かれ、梅にウグイスを描くことにしたのです。
とはいえ地味なウグイスをどう主役にするつもりなのでしょうか
こちらが上村さんが描いた梅にウグイスです。
よく描かれるピンク色の梅ではなく、あえて白い梅にすることで地味なウグイスを見事引き立てています。
「梅が主役にならないから今度脇役であるところの鳥が主役になって梅を脇役として生きていく」
鳥と共に暮らし、鳥を知り尽くした上村さんならではのウグイス。
実はモデルがいるようで。
「あれは僕です。人柄がその通りに出てくる。だからこれはもう完全に自分のオリジナルのものであると。百パセント
私なんですよ」
数多の絵師が描き伝えてきた梅にウグイス。
上村さんの手によってまた新たな市場が生まれました。
春色
奈良で四百年続く和菓子店「菊屋」。
創業当時から大事に守り継いできた春の和菓子があります。
うぐいす餅です。
でもなぜ奈良でウグイス餅なんでしょうかえ
「その当時のお城主さまが豊臣秀長秀吉様の弟君でございます。
で兄秀吉公をおもてなしする茶会をするから何か珍しいお菓子を作るようにというご命令がございまして
きっかけは豊臣秀吉が奈良で開いた茶会。
大事な茶会に珍しいお菓子を出そうということで、当時高価だった餡を餅で包み、その上からきな粉をまぶしたんだそうです。
そのきな粉の色がウグイスの色に似ていることから秀吉がうぐいす餅と名付けたと言われています。
今日最後のツボは、色で感じる春
薄い茶色に見えるウグイス。
しかし後からよく見てみると背中から尾にかけて緑がかかっているのが分かります。
この色がご存知うぐいす色。
江戸時代から春の色として多くの人を魅了してきました。
染色家の吉岡左千夫さんもその一人。
「繧繝のように黄色系の色から薄い緑。そして濃い緑とか変わっていて出来上がる一つの世界、小さな色の世界が魅力的ですね」
吉岡さんは草木染めでウグイス色を表現します。
材料は細かくしたヤマモモの皮。
この皮を煮詰めた汁で染めていきます。
しかしこれだけではうぐいす色にはなりません。
あらかじめ、藍で染めた生地を使って重ねぞめをするのです。
少しずつ染めては洗う作業を丸一日続けます。
色の掛け合わせは非常に難しい技術。
染め過ぎず薄すぎず。
職人の経験と勘だけで染め上げていきます。
ウグイス色がよく使われるのが着物の世界。
こちらはうぐいす色の紬の羽織です。
「ウグイス色と言いましてもですねいろんなウグイス色があるんですよね
薄い色からちょっと濃い色とかですねあのどうしても着物の色の場合はですね
うぐいす色ってなると薄めな感じをイメージしてるんですけど
本当の運勢より優しいっていう感じの方の方があの着物の世界ではあるんじゃないかなと思ってます」
一口にウグイス色と言っても実に様々です。
こうした懐の広さもまた魅力なんだと言います。
こちらは帯。
濃いウグイス色の場合、白の模様を大胆に入れることで色自体が優しくなり柄もまた引き立ってきます。
無地のうぐいす色と比べてみましょう。
少し地味な色合いがさっと華やいで見えます。
こちらは大島紬です。
一見真っ白。
でもよくご覧下さい。
細かいウグイス色代が織り込まれています。
こうすることで女性の顔を優しく見せる効果があるといいます。
日本の暮らしにしっかりと根付いたウグイス。
そのさえずりを楽しめる季節がまたやってきました。