美の壺 「食を彩る 絵皿」<File586>

2023.08.16.美の壺「食を彩る 絵皿」

モデル・冨永愛さんも絵皿の大ファン!ふだんの食卓で使うお気に入りを大公開!冨永愛流の選び方とは?!▽骨董(こっとう)市でも絵皿は人気!陶磁研究家に聞く絵皿の味わい方▽気鋭の陶芸家・浜野まゆみさん。江戸時代の古伊万里を探求する手仕事の技▽柳 宗悦が絶賛した普段使いの「石皿」とは!?▽ふぐ料理店ならではの絵皿使いこなし!▽金継ぎで生まれる新たな景色!<File586>

初回放送日:2023年8月16日

美の壺 「食を彩る 絵皿」

絵や模様が描かれた皿、絵皿は私たちの日々の暮らしに彩りを添え、食卓を様々に演出してくれます。日本の絵皿の歴史は、およそ四百年前、桃山時代の信楽焼きや織部焼き、唐津焼きから始まりました。骨董市でも、古い絵皿に注目が集まっています。

モデルの富永愛さんもそんな絵皿に夢中です。「なぜこの大きさなのか、なぜこの絵柄なのかっていうのは、やっぱり日本の文化につながってくるんですよね。」江戸時代の職人技を今に蘇らせる繊細な絵付けの皿、柳宗男氏が絶賛した素朴な日常使いの石皿、老舗フグ料理店の客をもてなす華やかな大皿など、家族の思い出をつなぐ大切な金次の絵皿まで、今回は絵皿の新たな魅力に迫ります。

モデルの富永愛さんは、十七歳の時から世界をまたにかけて活躍しています。そんな富永さんのSNSにアップする食卓には、絵皿がいっぱいです。集めているのは、江戸時代から昭和初期にかけて作られた伊万里焼。こうした古い絵皿に出会うきっかけがありました。

「海外に行くことが多くて、若い頃からやはり自分の生まれ育った日本の文化の知らなさを改めて感じて、まず一番最初に着物の着付けを習い始めたんですね。それで、骨董市にも行き出したんですよ。古布だったりとか、着物とか器も一緒に並んでいたので、そこから絵皿に興味を持ち出したという感じです。」

富永さんが特に気に入っているのが、生き物が描かれた絵皿です。「金魚なんですけど、この目がすごいコミカルで好きなんですよね。こういうキョトーンとしているところを見つけちゃうと、もう食べてほしくなります。豪華絢爛なお皿よりも、ちょっとそういう抜け感があった方が面白いじゃないですか。人生と一緒ですよね。どこかで抜けてるところとか、そういう癖があるんだみたいな、そういうところが面白いじゃないですか。それと一緒です。人と一緒です。」

富永さんはこうした絵皿を日々の食卓で使っているそうです。「私は普通に使っていますね。飾っておいたらもったいないじゃないですか。そんなに飾っておけるスペースもないし、そもそも自分が気に入って買った器を食卓に出してこそ楽しめるものだと思うんですよね。この鳳凰の絵だったりすると、料理を乗せてしまったら見えないんですよね。でも、食べた後にほうが出てくると「あ、なるほど」と思いますよね。出会いというか、やっぱり器一つとっても、なぜこの大きさなのかとか、なぜこの絵柄なのかというのは、やっぱり日本の文化につながってくるんですよね。こういったものを普段の生活で使うっていうのも、自分の息子にとか家族にとか伝えられることがあると思いますし、ライフスタイルっていうのは心のどこかで染み付くものがあると思うんですよ。そういった意味でも、こういった絵柄や古い絵皿を伝えていけるのであれば伝えていきたいですね。」

今日、一つ目のツボは、時代の一颯 を 楽しむ

東京有楽町。都会の真ん中で開催されている骨董市です。若い人や外国人にも絵皿は大人気。こうした絵皿の時代や背景を知れば、もっと楽しめるのだとか。

古美術商の家に生まれ、日本の陶磁器について研究してきた森由美さん。こちらは森さん愛用の古い絵皿。白地に青の染め付け。時代によってその青が変化するといいます。

「青い色、これをゴスっていう言い方で呼ぶんですけれども、江戸時代は天然の鉱石を使って作られているものだったんです。鮮やかで綺麗な色ですけれども、もっと淡いものもあります。一方、明治以降には人工的に作られた合成のコバルトが登場します。とっても濃い色っていうのが出るようになってくるんです。これはこれで当時の人にとっては驚きを持って喜んで受け入れられたかと。色だけ見て、これが時代が古いとか新しいとか言い切れないんですけれども、染め付けの色ってすごくその時代を映すというふうに私は思ってるんです。」

絵や模様は明治時代になると、それまでの手書きに変わり、型紙を使った印刷が多くなります。「あれ、模様がはみ出していますね。これもまさに手仕事ですよね。この面白さっていうのを味わっていただきたいなと、あえてちょっとズレを探してみたりとか、そんな部分、すごく面白いものが発見できるんじゃないかというふうに思います。」

さらに森さんはこんな楽しみ方も提案します。「私はこれをパッと見た時に人手の皿というふうに呼んでしまうんですけれども、細かい柄が生涯画、いわゆる波の模様なんですね。だから波の模様と人手ということで、夏の海辺のお皿なんていうイメージで使えるかなというふうに思ったりします。またお星様というふうに見ると、クリスマスの時の器として使うっていうこともできるかと思うんですね。そんなふうに見立てるっていうのは、これすごく楽しい日本の文化なので、ぜひそれを活かしていただきたいなというふうに思っています。」

絵皿は古の文化や遊び心を今に伝えます。

佐賀県唐津市に、古い焼き物を探求し、器を作り続ける陶芸家がいます。浜野麻由美さんです。

大学では日本画を学び、九州の古い焼き物に魅せられて移住しました。

浜野さんの作品は染め付けの絵皿が中心で、記事の風合いや文様、器の形も古い時代の絵皿を参考にしています。特に魅力を感じているのは、江戸時代の前期に九州有田で作られた小稲荷です。古い陶片から古の技法を探求しています。

夕焼けの色だったり、ゴスの色だったり、古い焼き物が一つあれば、そこから学べることはものすごくたくさんあるので、昔の人がどう作っていたのかを考えながら、探りながら作っています。

今作っているのは、江戸初期の器を参考にした軍配型の絵皿です。小さな花が連なったフジの紋様は、子孫繁栄の象徴でもあります。形作りは江戸時代の有田の技法を用い、原料の粘土を糸でスライスする糸切り成型です。糸切り成型は江戸時代初期に登場しましたが、今ではやる人がほとんどいません。

当時の技をたどることで、昔の職人の思いを感じたいと浜野さんは言います。ここに描くのは藤の花です。江戸時代の人の衣装が非常に優れていると感じ、それを実感しながら描いていると、筆が進むとのことです。

焼き上げるのは、江戸時代の窯を再現した上り窯です。青色の濃淡や生地の風合いなど、さまざまな表情の絵皿ができました。火の力というか、釜に任せるところも多いので、自然の力を感じます。自分が予測してきていることだけでは全然ないので、それはそれとしてどう向き合うかが大切だと浜野さんは考えています。

古の職人から受け継いだ技で、祈りを捧げるように絵皿を作り続けます。

今日、二つ目のツボは、先人の技をたどろう

愛知県瀬戸市に、民芸運動の父、柳宗男氏が惚れ込んだ絵皿があります。その名は「石皿」です。石のように丈夫なことからこの名がついたと言われています。石皿は江戸時代の終わり頃から盛んに作られた普段使いの器です。

柳はこんな言葉を残しています。「旗小屋やニューリアをはじめ、どんな台所ででも重宝がられました。この皿には昔は巧みな絵を描きました。陶器の絵でこのくらいの美しさを持つものは、日本の焼き物では他に多くはない」と。伝統を受け継ぎ、今も石皿を作り続ける工房があります。投稿者は水野祐介さんです。

当時はその技術をかけない職人たちが表現方法の一つとして絵を描いていったそうです。日常の中で使われる器に少しでも楽しみや彩りを表現するために描いていったのだろうと考えています。

石皿はゴスト鉄の二色の線でシンプルに描かれています。身近な植物や風景などを題材にした素朴で和やかな絵が特徴です。こちらは江戸時代の終わりから盛んに描かれた柳の絵です。名古屋城を柳城と呼んだことから人気が高く、多く作られました。

当時の職人が一喜火星に駆け上がりました。現在、水野さんの工房では、当時と同じ絵の石皿を作り続けています。今も昔も、石皿の絵に必要なのは速さと勢いです。

水野さんの祖父、六代水野繁次郎はこんな言葉を残しています。「二十三分に一個作らないと仕事にならない」。驚くべきスピードです。今の技から言えば神業です。

早いから仕事が枯れて美しい。枯れて美しいという表現をしています。枯れてというのは、なぜだと思いましたが、やっぱりそれはたくさん描いてこなれていく、仕事も熟していく、そういうところでそういう表現をしたのかなと思っています。

職人たちが育んできた、時代を超えて愛される絵皿です。まずは綺麗にいかないとね。「どうしたの、落とさないか。怖くてね、集中するから静かにね」と。

東京銀座、昭和三十三年創業のフグ料理店です。店主の熊沢亮さん。ふぐといえば、なんといってもふぐさし。熊沢さんが使うのはこちらの絵皿です。自ら骨董市などに出向き、厳選した器です。

江戸時代の染め付けの皿、大胆な紋様の織戸焼き、江戸時代後期の伊万里、季節や客の好みに合わせて選びます。薄くさばいたフグの身を敷き詰めていきます。

熊沢さん、こうした絵皿を使う前は無地の皿に持っていたそうです。「久武蔵の字が白くて透き通っているのを見せたくて、白磁だとかに持っていたわけです。でも無地だとちょっと面白くないから、絵皿にしたらいいんじゃないかと」。

実際、お客様にとっても絵皿は楽しい。「おおっと見えてくださる」というように、手前味噌だからやったという感じがありますね。

フグチリ用にはナマス皿を使います。客の雰囲気や服装などに合わせて振る舞います。熊沢流の盛り付けのコツを教えてもらいました。

実は、料理をよそる時、余白をどれだけ残してよそるかということの方が頭を使います。大概、日本の器たちというのは全体の七分目ぐらいまでによそってあげると、非常に料理が映え、器はとても綺麗に見えます。

骨董の綺麗な器を眺めている時よりも、料理が盛られた時のほうがいい景色だなと、器たちも喜んでくれているんじゃないかなという感じがします。

今日三つ目のツボは景色を生み出すバナナだから、

絵皿の一味違った楽しみ方をする人がいます。それは森谷久美さんです。森谷さんの趣味はこちら、金継ぎです。器の壊れた部分を漆などで接着し、金や銀などで装飾する技法です。森谷さんは十年ほど前から金継ぎ教室に通って腕を磨いてきました。

「これまで金継ぎした中でも特に思い出深い絵皿があります。商売をしていた夫の家で、大勢の職人や家族をもてなしてきました。一度割れてしまいましたが、金継ぎをして大切に使っています。そこの場に私はいなかったけれども、なんかそのお皿を見ると、その時の家族というかお客さんとの雰囲気とか、目に浮かぶような感じがする一枚ですね。」

「この皿に金継ぎをすることで新たな発見もありました。金継ぎの生まれ変わったそのあれを景色ってなんか言うらしいんですけれども、友人が「聞くと聞くの間に小川が流れてるみたい」と言ってくれて、「あ、なるほどそういう見方もあるんだ」と。」

森谷さんがこの絵皿に合わせるのは、三年前に亡くなった夫の好物です。

「主人がお稲荷さんが大好物だったので、「もうお稲荷さんを山のように乗せてドン!」みたいな感じで、代々何台にも渡って使われてきた器もあるだろうし、それをつないできた人たちの想いとかも、そこの絵に現れているような気がします。ものだけれども、すごい感情を持ったもののような気がします。」

それぞれの時代、それぞれの場所で輝く絵皿です。